アドラー心理学は、現実の人間関係における困った場面や、人生の選択肢に直面しているのに、一歩を踏み出せないといった場合にこそ役に立つ心理学です。
世の中には、困難を克服する活力を失わせるような、様々な圧力があふれています。
世の中の様々な圧力のある中で、自分自身がマイナスの状況に落ち込まないようにすることが必要となります。
今回は、アドラー心理学でいう勇気づけと、逃げないで生きていく、ということについて書いてみたいと思います。
アドラー心理学では、困難を克服する活力のことを勇気と言い、この勇気を失わせることを「勇気くじき」と言います。
私たちは人生で様々な対人関係上の困難に出会います。
その時に必要とされるのが、「勇気」です。
「勇気」を持つための動機付けをすることを「勇気づけ」と言います。
この勇気づけは、自分自身が行う場合もありますし、他者から行われる場合もあります。
また、反対に、困難を克服する活力を奪うことを「勇気くじき」と言います。
こちらも同様に、自分自身が行う場合もありますし、他者から行われる場合もあります。
「勇気くじき」は次のようなことから起こります。
目標のハードルが低いと、簡単に目標に到達できてしまうので、成長せず、達成感も味わえません。でも、あまりにハードルが高すぎると、逆に何度トライしても達成につながらないので、意欲がなくなってしまいます。
これは他人に対してもそうですが、自分自身に対しても同じように行っていると、同じように意欲がなくなってしまいます。
1.の目標ハードルに到達できていない部分を「どうして」「なぜ」と指摘されると指摘された側に不快感が増し、お互いの人間関係を悪化させます。
1.の場合と同じように、自分自身に対してこれを行うと、常に自分自身を責め続けることになります。
2.の達成できていない部分の指摘が、事実や行動だけにとどまらず、人間性まで否定されてしまうと、「自分は何をやっても認められない」という気持ちになり、信頼関係がなくなり、協調性もどこかに消え去ってしまいます。
そして、自分自身に対して、これを行うと、自分自身の人格を否定してしまい、自分自身へのあきらめが強くなり、人生から逃げるということになります。
私たちは複雑な人間関係の中で生きています。
そんな中でも、勇気を発揮するポイントがあります。
良い人間関係を築こうと思っても、お互いに尊敬・信頼がなければ不可能です。
そのためには「相手が・・・だったら」「・・・でありさえすれば」という条件をつけないことです。
「人は一人ひとり」違うということ、パーソナリティの違いを認めることです。
相手のここが「短所」だと自分が思っていることは、裏返して見てみれば、実は、その人の長所であったりします。自分自身の思い込みで相手を判断しないように気をつけることが肝心です。
相手の中にある長所を見つけるようにします。
上下関係のない、ひとりの人間として、尊敬・信頼に基づき、パーソナリティの違いを認めつつ、時として必要な時は逃げずに、ホンネとホンネのやりとりをすることです。
アドラー心理学は、自分自身および周囲の他者を確実に勇気づける心理学であることをさらに説明していきます。
「勇気づける」と「ほめる」とが混同されがちです。
どちらも「ヨイところ」に目をつけるという点では同じですが、根本的には違います。
「勇気づけ」は、自分自身にも行うことができます。
私たちの周りには、先ほども書きましたが、勇気を失わせる、つまり「勇気くじき」を起こす圧力があります。
1.高すぎるハードルの設定、2.達成できていない部分の指摘、3.人格否定などがそうです。これは他者から受ける場合と、自分自身が起こしている場合とがあります。
「自分自身への勇気づけ」がマイナスの状況に陥らないようにするのに必要です。
では、いかに自分自身に勇気づけをしていけば良いのでしょうか。
そこには、3つのカギがあります。
「所属感」「信頼感」「貢献感」です。
自分自身の居場所を持つこと。会社・家庭・地域の中でしっかりと「自分は確かにここにいるのだ」という存在感を持つことです。
周囲の人々に対する信頼。この感覚をもち、目標が共有されていると、周囲の人たちとの協力が可能になることです。
自分が世のため人のために役立っているという感覚を保つということです。
自分の貢献を待っている人がいると信じられることです。
アドラー心理学の中で最も重視しているのが「貢献感」です。
私たちは一人では生きていけません。
私たちは社会を構成し、共同体の中で生きています。
共同体の中で貢献することは、自分の富や地位や年齢にも経験にも関わりなく、意志がありさえすればできます。もっとも確かな幸福へのパスポートです。
自分自身を勇気づけるためのもっとも早い近道があります。
それは、「言葉」と「イメージ」と「行動」を「勇気づけ」に満たしきることです。
そのためには、自分自身や他者にプラスの言葉をはっきりと使うことが大事です。
プラスの言葉を使うと、自分自身のイメージがポジティブになります。
「言霊(ことだま)」という言葉があります。言葉は私たちの心理面だけでなく、身体的面にも影響を与えます。
苦しい場面に立った時でも、「私はくじけない」と自分自身を奮い立たせます。
そして、マイナスのイメージなど入り込む余地のないくらいきっぱりとイメージすることです。
次に、自分自身の中で言葉とイメージをプラスにしながら、行動は即座に行うことです。時には見切り発車しても構いません。
そして、いつも物事がすでに成就したかのように、肯定的に生きるということです。
自分自身を勇気づけるために次の言葉を何度も唱えることがおすすめです。
自分に「困難を克服する活力」=「勇気」がある人は、他者の「勇気をくじく」ようなことをせず、他者への「勇気づけ」ができるようになります。
他者への「勇気づけ」を行うには次の3段階で行うように留意します。
相互尊敬・相互信頼の関係の中で行うことが重要です。
相手がこちらの勇気づけを待って鼓動するのではなく、相手が自発的に自分で自分を勇気付けることができるようになるように勇気付けることです。
「自分だけが良ければいい」という利己的発想ではなく、「勇気づけ」された相手が、さらに自分の周囲の人たちを「勇気づけ」られるようになることです。
「ダメ出し」に代わる「ヨイ出し」を行います。
「ダメ出し」は「勇気くじき」です。「ヨイ出し」はその人の「ヨイ点」がますます多くなるだけでなく、人と人とを結びつける効果があります。
「減点主義」に代わる「加点主義」をとります。
「減点主義」のやり方というのは、高い立場から低立場にいる人の様子を見て、自分自身にある基準とその相手との現状から生じた落差を強調するやり方です。
知識が豊富で経験が豊かである人ほど、この減点主義を採用しがちになります。
しかし、相手のことを本当に理解しようとするなら、共感の目で接し、目線を低くし、相手の目で見、相手の耳で聞き、相手の心で感じることが大事になります。
また、実際そのようにしていると、人の努力に感動を覚えることがあります。
結果ばかり見るのではなく、「プロセスを重視する」ことです。
現代社会は、「結果」がすべてであるという論理がまかり通っています。しかし人には血も涙もあります。プロセスに目を向けられることによって、人にはやる気が湧いてきます。
小さな進歩、黙々とした努力にもっと目を向けることです。
アドラー心理学において、失敗は「チャレンジの証」「学習のチャンス」とみなしています。
自分自身の失敗は受け入れても、他者の失敗を受け入れられないことがあります。
他者においても、失敗は「チャレンジの証」「学習のチャンス」なのです。
相手に対して感謝を伝えましょう。
自分に向けられた貢献や協力に対して「すみません」「申し訳ありません」とつい詫びてしまいがちです。でも、それは相手に対して感謝を伝えたことにはなりません。相手に対して、素直に「ありがとございました」「助かりました」と感謝の言葉を伝えることです。言葉は言霊です。相手に感謝の気持ちが通じます。
いかがでしたでしょうか。
アドラー心理学は、現実の人間関係における困った場面や、人生の選択肢に直面しているのに、一歩を踏み出せないといった場合にこそ役に立つ心理学です。
アドラーは、自分はできないという思い込みが生涯にわたって固定観念となってしまうことに警鐘を鳴らしています。
私たちはつらい経験をしても生きていかなければならない時があり、自分が取組まなければならない課題に対して逃げて生きていくことはできないのです。
仮に過去につらい経験をしたことがない人でも、その先にある人生の中には、決して思いのままにならなかったり、苦しい人生を生きていかなければならないかもしれません。
しかし、この苦しみはただ苦しいものではなく、たとえるとするならば、鳥が空を飛ぶために必要な空気抵抗にたとえることができます。あまりに風の抵抗が強いならば、鳥は風に押し戻されて飛ぶことはできませんが、抵抗があればこそ、浮かび上がり飛ぶことができるというものです。
たとえ苦しみに満ちた人生であっても、どうにもならないと諦めるのでもなく、反対に、何とかなると考え、課題を前にして何もしないのでもなく、できることをしていくしかありません。
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